2024.05.10
神田町のビル再生事例|シェアアトリエ・カンダマチノート(前編)

私たちがプロデュースし、事業計画、リーシング、運営まで行ったビル〈カンダマチノート〉についてご紹介します。

■プロジェクトの始まり

美殿町のシェアオフィス〈まちでつくるビル〉(以下、まちビル)が順調にスタートし、2014年に新たなビル活用の相談が舞い込みました。まちビルから徒歩5分の〈加藤石原ビル〉という築50年以上の雑居ビルで、オーナーの加藤浩一さんは仕事も住まいも東京。 「ビルには高齢の母がひとり暮らしをしており、2階以上の空室を活用できないか?」との依頼でした。 岐阜市の中心市街地でも2階以上の空き物件を活用することはなかなか難しいのですが、まちでつくるビルの実績もあり、新たなチャレンジとして、ご依頼をお受けさせていただきました。 ビル全体をブランディングして価値を創造し、一方で投資は小さくして若い人たちが入りやすい環境を整えることを提案しました。 当時、岐阜周辺でのシェアオフィスはまだ珍しく、メディアへの露出も多かったまちビルにはふらりと立ち寄る人や見学者がありましたが、オフィスのため、突然の来訪対応は難しく、訪れた人も居場所がないため、オープンで誰でも気軽に入れる場所ができれば街の景色も変わるのではないかと考えました。 また、ちょうど〈サンデービルヂングマーケット〉(以下、サンビル)を立ち上げ、柳ケ瀬商店街につくり手が毎月集まる状況ができ始めていた時期でした。 個人で活動する人が、まちへ出て、仕事や生活を豊かにする拠点を、まちなかにもっと点在させたい。まちをおもしろく仕立てていくことがエリアの価値につながる、という仮説を実現するため「ものづくりをする人たちの作業場+販売」を中心にしたシェアアトリエ、カンダマチノートの構想ができあがりました。

ビル竣工当時の外観。いまはアーケードが前面にかかり、わかりづらいがモダンなビルだ。

 

空間の見立てで活路を見出す

当時のビルの構成は、2階に雀荘、3階に消費者金融の事務所、3〜5階は住居スペースとして使われた後に空いた状況で使いづらそうな雰囲気でしたが、丁寧に見ると躯体の仕上がりや手すりや建具などのつくりに風合いがあり「これはいい空間になりそうだ」という手応えを感じたことが、事業を進める決め手となりました。 私たちは不動産活用を検討する際、空間の見立てを大切にしています。オーナーさんの人柄や不動産の立地等はもちろんですが、空間体験として魅力的で、場が大切にされていたり、使い方によって化けそうな期待を感じられるかが重要です。

 

不動産投資でのお金の流れをあらためて考える

活用に伴う設計及びデザインの報酬は、一般的に先行投資としてオーナーから支払われます。私たちは設計・デザインだけを手がけることもありますが、今回は不動産プロデューサーとして事業内容にも関わる立場なので、報酬のいただき方を見直す必要を感じていました。オーナー様としても結果が見えない中で、先立って費用を払い切るにはどこかすっきりしない気持ちがあったかもしれません。

そこで収支計画を睨み、1年で事業化するスケジュールを立て、リノベーション費用などの必要経費のみを先払いしてもらい、残りは5年をかけた成功報酬制としました。

この仕組みによって、私たちのコミットが高まり、オーナー様とは一つのチームとして信頼関係が強まり、比較的対等な立ち位置で仕事をすることができました。結果を出せば、定期的な利益が生まれることもやりがいにつながります。

 

オーナーと共にセルフリノベ。ビルの変化と思いを共有する

これまでにセルフリノベを何度も繰り返した私たちの能力を活かすこと、ビル活用に向けたプロモーションの皮切りとして塗装ワークショップを開催しました。DIYに対しての関心も高く、2回のワークショップは満席で20人くらいが集まり一緒にペンキ塗りを楽しみました。ただの塗装作業の時間にするのではなく、ビルの未来やストーリーを伝えて、一緒にワークし、ビフォア・アフターの景色の違いに手応えを感じてもらえるように進めました。

東京在住のオーナーも家族で岐阜に訪れ、一緒にDIY作業をしたり、手作りのお菓子を振る舞ってくださり、ビルの変わっていく様子を直接目にすることで感慨深く感じていたようです。

資産には歴史があります。維持管理や金銭的価値の変動などで苦労も多いなか、歴史を共有する相手を見つけ、一緒にアップデートしていける喜びは、ビルオーナーでしか味わえない特別な感覚だと思います。

このように、ビルをまちに開き、最低限のリノベーションを進めながら入居者募集を行いました。

(後編に続く)